企業が自社にとって不利な情報をまったく開示しなかったり,虚偽の情報を開示したりしたならば,市場の価格形成機能が適切に働かなくなり,実体を反映しない証券価格を通じて,その企業経営に対する誤った市場の評価が伝えられてしまう。
その結果,投資者が不測の損害を被るばかりでなく,発行市場を通じた資金の効率的配分ができなくなり,国全体の経済力に大きな影響を与えることになってしまう。
そこで,証券取引法は,流通市場を利用している証券の発行者に,有価証券報告書などにより,一定の』情報の継続的な開示を強制するとともに,その違反や虚偽の情報開示に対する制裁手段を用意している。
以下の証券などについては,証券取引法第2章「企業内容等の開示」(証取4条〜27条)の規定すべてが適用されない(証取3条)。
(i)国や地方公共団体が元利金の支払をする証券や,政府が支払を保証している社債券これに該当する証券には,国債,地方債(証取2条1項1号・2号),電源開発社債,石油資源開発社債などがある。
これらについては,債務不履行はほとんど起こりえないため,開示制度は適用されない。
(ii)特別の法律により法人が発行する債券や特別の法律により設立された法人が発行する出資証券(証取2条1項3号・5号)これに該当する証券には,金融債,道路債券,放送債券,日本銀行や帝都高速度交通営団への出資証券などがある。
これらの証券の発行については,特別の法律に基づいた監督官庁による規制が行われているため,原則的には,開示規制の対象外とされている。
(iii)貸付信託の受益証券(証取2条1項7号の3)貸付信託法により,特別の開示手続が定められているためである(貸付信託法7条など)。以上の適用除外に該当しない「有価証券」(証取2条1項・2項各号に列挙されている証券または権利)に,開示規制が適用される。
開示規制の典型的な対象証券は,社債券(証取2条1項4号),株券(同項6号)などである。
証券取引法での継続開示は,有価証券報告書,半期報告書,臨時報告書の内閣総理大臣への提出により行われるが,これらの開示書類の作成・提出義務を負うのは次の者である(証取24条)。
@証券取引所に上場されている有価証券の発行者(証取24条1項1号)。
A店頭売買有価証券の発行者(証取24条1項2号,証取令3条)。
いわゆる店頭登録銘柄の発行者である。
B有価証券の募集・売出につき,有価証券届出書または発行登録追補書類の提出など,発行開示をした者(証取24条1項3号)。
ただし,当該有価証券の所有者の数が25名未満となり,内閣総理大臣の承認を受けた場合は開示義務を負わない(証取24条1項但書,証取令4条2項3号,開示府令16条2項・3項)。
C当該事業年度の末日における資本の額が5億円以上で,過去5年間の事業年度の末日のいずれかにおいて株券および優先出資証券の所有者の数が500名以上である会社(証取24条1項4号.24条1項但書,証取令3条の6第2項)。
ただし,当該事業年度の末日における株券および優先出資証券の所有者の数が300名未満の場合は開示義務を負わない(証取24条1項但書,証取令3条の6第1項)。
これらの要件事実のうち,@〜Bまでは発行会社が自ら行ったことにより発生するものであるが,Cの「株券および優先出資証券の所有者の数が500名以上」という要件事実は発行会社の外で発生するものであるため,その場合は,発行会社の意向とは無関係に継続開示義務が発生することになる。
なお,BかCに該当しても,その者が清算中であるか,相当の期間営業を休止している場合は,内閣総理大臣の承認を受けることにより,開示義務を免れることができる(証取24条1項但書,証取令4条2項1号・2号)。
これらの書類の受理の権限と承認の権限(証取令4条2項1号〜3号)は,内閣総理大臣から金融庁長官に委任され,さらに財務局長などに委任されている(証取194条の6第1項,証取令39条2項1号・4号)。
@〜Bの要件事実(日本国内における)に該当すれば,内国会社・外国会社にかかわらず,継続開示規制が適用される。
Cについては,適用対象となる有価証券が,株券と優先出資証券に限定されているため(証取令3条の6第2項,証取2条5号の2.6号。
なお,同条9号・10号の3参照),外国会社がCに該当することはないものと思われる。
(a)有価証券報告書継続開示義務を負う会社は,事業年度ごとに,当該事業年度経過後3ヵ月以内に有価証券報告書を内閣総理大臣に提出し,さらに上場証券の発行者の場合は証券取引所,店頭登録証券の発行者の場合は証券業協会に,その写しを提出しなければならない(証取24条1項・7項,同6条。
外国会社の場合は原則6カ月以内,証取令3条の5)。
特定有価証券(証取令3条の4)すなわち,いわゆる資産金融型証券(後述(6)参照)の場合は,当該資産の運用期間を考慮して指定された「特定期間」ごとに提出しなければならない(証取24条5項,特定証券開示府令23条)。
有価証券報告書には,当該会社の商号,当該会社の属する企業集団および当該会社の経理の状況その他事業の内容に関する重要な事項その他の公益または投資者保護のため必要かつ適当なものとして内閣府令で定める事項が記載される(証取24条1項・5項,開示府令15条,特定証券開示府令22条)。
有価証券報告書などによる企業内容の情報開示については,会計ビッグバンといわれる大改革が進行中であり,平成12年3月期より,連結情報の開示の充実と連結キャッシュフロー会計の開示,平成13年3月期より,金融商品の時価評価と退職給付会計の導入,平成14年3月期より,持ち合い株の時価評価などの改革が進められている。
(b)半期報告書継続開示義務を負う会社で,事業年度が1年の場合は,事業年度の開始から6カ月間の,当該会社の属する企業集団および当該会社の経理の状況などを記載した半期報告書を,6ヵ月経過後3ヵ月以内に内閣総理大臣に提出し,さらに上場証券の発行者の場合は証券取引所,店頭登録証券の発行者の場合は証券業協会に,その写しを提出しなければならない(証取24条の5第1項・3項・6項,同6条)。
(c)臨時報告書継続開示義務を負う会社が発行者である有価証券の募集・売出が外国で行われるときなど,公益または投資者保護のため必要かつ適当なものとして内閣府令で定める場合に該当することとなったときは,その会社は,その内容を記載した臨時報告書を,遅滞なく,内閣総理大臣に提出し,さらに上場証券の発行者の場合は証券取引所,店頭登録証券の発行者の場合は証券業協会に,その写しを提出しなければならない(証取24条の5第4項・6項,同6条,開示府令19条)。
(d)自己株券買付状況報告書上場株券等の発行者についてのみ要求される特殊の継続開示書類である。
上場株券等の発行者が自社株を買い付ける場合または買い付けた場合にのみ開示される。
上場株券等とは上場株券と店頭登録株券などをいう(証取24条の6第1項,証取令4条の2)。
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